Only One

ロンドンがコロナ禍に侵される直前に行われたブライアンフェリーの最新アルバムを聴いて。ロキシーミュージック時代からその秀悦な容姿は音楽業界以外からでも引く手あまただったに違いなかっただろうが、80歳を遥かに過ぎた現在に至るまで徹頭徹尾歌い手であることにこだわり続けたイギリスのロックシンガーである。これ程までに英国産を感じる歌手も類を見ないが、ついにアメリカで芽が出なかったのは本人の意思では無いにしても、ヨーロッパ的な陰影を描き続けたストイックな姿勢と、英国らしい捻りを加えた独特のポップセンスが単刀直入を好むアメリカ人受けしなかったのは必然でもあった。恐らく本人もそれは解っていただろうし、彼なりの妥協も努力もしたのだろうが、根本に関わる音楽観を曲げてまで世界制覇を狙わなかったのは、『商業的成功より芸術的勝利を望む』と言う彼のポリシーがそれを許さなかったからだと思う。グローバルの波が席巻する昨今の音楽業界を見るに付け、フェリーのように筋金の通ったアイデンティティを感じるサウンドに親しみ続けて来られたことには今更ながら幸運だったと言う他は見当たらないが、それだからこそ半世紀にも渡って数多くの熱狂的ファンを魅了し続けて来たとも言えるのである。ロキシー時代の隠れた名曲、『スリル・オブ・イット・オール』のイントロから印象的なコーラスへ移行する際に客席から沸き起こった万雷の拍手、高齢のフェリーが歌うその周りを温かくも巧みな演奏で一生懸命盛り上げている年下のバックミュージシャン達。もはやフェリーのヴォーカルに往年の色艶も声量も望めないにも関わらず、今そこにフェリーが歌っているだけでそれでいい!そんな感覚で現地のリスナーもCD越しの私も彼の奏でる世界にトリップしているのだ。そこまで愛せるのはブライアンフェリーが築き上げてきた歌心の故であり、歌うことに生涯を賭ける男への畏敬の念である。一人のミュージシャンとしてのそのひたむきな姿勢はかつて彼の代名詞として形容された『ミスターダンディ』に相応しい。ダンディズムとは見た目の格好を指すのでは無い。如何なる場合にもみっともないところを見せまいとする凛とした佇まいをこそ指すのである。

A Song For Japan

日々の創作日記とお気に入りの音楽など。日常と非日常を行き来する奇妙な世界をお楽しみ下さい。

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